国旗・国歌に対する意識と態度調査 報 告 書 日米高校生比較
1989年9月 財団法人日本青少年研究所 はしがき 日本の若者青少年たちは、外国の国旗や国歌に対し敬意を表さないばかりか、国旗掲揚・国歌吹奏に際しても、ふざけた態度をとっていると、諸外国から非難されている。そこで、日本青少年研究所では、国旗・国歌に対する意識や態度をアメリカとの比較をとおしてみることにした。結果は諸外国からの非難が正しいことを証明したようであり、この調査結果が、議論の起爆剤ともなり、今後の国際交流にいくらかでも役立つことを願っている。 1989年9月 日本青少年研究所長 千石 保
調査の概要
日本青少年研究所では、国旗や国歌についての意識調査をアメリカと比較で行った。国旗や国歌については、従来、公教育で必ずしも厳密な教育が行われなかったが、最近、文部省では公的教育として明確に位置付けようとしている。 従来、国歌や国旗についての調査は、日本国内、特に青少年の意識調査の形で行われることもあるが、国際比較の形ではなかった。 総務庁青少年対策本部では、5年毎に行う「連帯感調査」で国旗観だけを問うており、、昭和45年以降、5年毎に過去4回行われた。この結果によると、無関心派が3ないし4割前後、好意的関心を持つ者が5〜6割で、無関心派が多いことは国旗としてのアイデンティティが問われる状況といえるだろう。この調査では、国歌の君が代を問うていないが、多分、国歌に対する好意的態度は、国旗より少ないだろうと想像される。 このような状況は、国際交流の場合に少なからぬ影響を与えているといえるだろう。日本国、ないし日本人は最近とみに国際交流の場面に多く登場するようになり、国歌や国旗に対する態度が、直載に諸外国の若者と比較されるようになってきた。 このような国際化の場面では、国歌や国旗に対するあいまいな意識や態度が許されなくなってきており、公教育も同様に明確な指針を出さねばならぬ立場に置かれたといえる。 このような国際化の場面では、国旗や国歌に対するあいまいな意識や態度が許されなくなってきており、公教育も同様に明確な指針を出さねばならぬ立場に置かれたといえる。 このようにして日の丸、君が代を国旗・国歌として尊重するか否かが、明確にされなければならなくなったといえよう。最近、国際間の交流が盛んになるにつれて、日本の青少年たちが自国の国旗・国歌はもとより、外国の国旗・国歌に対する無関心さと教育の貧困に原因があると考えられるが、本調査では、まず、高校生の国旗・国歌に対する意識及び行動を把握することに務めた。 質問はまず、国旗や国歌に対する「意識」と、国旗掲揚や国歌吹奏時における「態度」を客観的事実として把握すること、次に、青少年の国旗・国歌に対する意識を「国旗・国歌として認めるか否か」として問うことにした。 後に詳しく述べるように、アメリカの高校生と比べ、日本の高校生のマナーが必ずしも良くない結果が抽出された。
調査時期・対象者・方法
調査対象者の基本属性 調査対象者の性別、学年、学校種類および学科種別は次のとおりである。
調査結果の概要
1 自国の国旗・国歌に対する態度
日本の若者が外国へ行った際、あるいは日本国内でも、外国の国旗や国歌に敬意を表さないとして、ひんしゅくを買っている。第2次世界大戦後、日本の国旗・国歌について、諸外国に対する侵略イメージや、国歌の内容に疑問を持つ考え方があり、公教育の場でも、国旗掲揚や国歌吹奏に際してのマナーを厳格に教えなかったといえる。この点、アメリカ合衆国では、日常的に国旗・国歌に対する厳粛な態度と愛国心の教育を行っており、日本とアメリカ合衆国とでは極めて対照的な状況にあったといえる。このような国旗・国歌に対する考え方や態度が、諸外国の青少年と著しい相違をみせるようになり、外国のひんしゅくを買うようになってきたと考えられる。 そこで本調査では、国旗及び国歌について、どのような意識や行動をとっているかの実態を聞き、さらに、国旗・国歌の変更についての意識を含めてたずねている。 まず、国旗掲揚や国歌吹奏の場合の態度についてみてみよう。 この質問では日本とアメリカで異なった形式をとっている。日本での質問は、起立して礼儀を正すかどうかに焦点が置かれたが、アメリカでは起立し威儀を正すかどうかに焦点が置かれたが、アメリカでは起立し威儀を正すのは当然と考えられており、日本と同じ質問をすることは不可能であった。このため、アメリカでは「尊重しているから」起立するのか、それとも「尊重していない」が起立するかに重点が置かれることとなった。 ここで日米の質問を並べておこう。
日本の質問 あなたは学校の行事や何かの式典で、国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、起立して威儀を正しますか。1つだけ選んで下さい。 1.起立して威儀を正している 2.座っているときは座ったまま、特別な態度はとっていない 3.どんな態度をとっているか覚えていない 4.どちらでもいいことと思っており、特別な態度はとっていない
アメリカの質問 あなたが集団、あるいは公の場にいてアメリカの国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、次の中からあなたに最もよくあてはまるものを1つだけ選んで下さい。 1.国旗や国歌を尊重しているので、起立してセレモニーに参加する 2.特に国旗や国歌を尊重していないが、起立してセレモニーに参加する 3.セレモニーを無視して、前にしていたことを続ける
質問が異なるので比較は困難だが、結果を図示したのが図1−1である。一見して明らかなように、日本では約4分の1程度の25.6%が起立して威儀を正すものの、大多数の者は起立しない。これに対し、アメリカではほぼすべての者が起立して威儀を正しており、無視するという者はわずか2.8%に過ぎなかった。アメリカでは行事や式典ではほとんど全員が起立して威儀を正すのに対し、日本では約4分の1の者がそうするだけで、日本とアメリカでは決定的に異なった態度をとっているといえる。 日本では「どちらでもよく特別の態度をとらない」という者が31.2%で多数派であり、これに明確に「特別の態度をとらない」という者の25%を加えると、56.2%となり、過半数の者が「特別の態度」をとっていない。また、「どんな態度をとっているか覚えていない」という者も18.2%あり、国旗・国歌に対する関心の低さを示している。 既に述べたようにアメリカの共同研究者は、日本と同じ質問である「起立をして威儀を正すか」というワーディングでは、いつの場合も起立して威儀を正しているのが実態だから、質問自体ナンセンスと主張し、結局、「尊重して」起立するか、それとも「尊重しないが」起立するかを問うこととなった。この結果でも、「尊重しているので」という者が84.6%と圧倒的多数を占めた。 「尊重していない」が起立し威儀を正すという態度は、日本の実情を考えるとセレモニーにおけるマナーの在り方という点で、大いに参考になるといえよう。アメリカの結果では「尊重していない」が起立して威儀を正すというものが12.6%で「無視する」という者の2.8%と照らし合わせると、尊重していない者でもほとんど全員が起立して威儀を正す態度であることが判る。
図1−1 自国の国旗掲揚・国歌吹奏に際しての態度 次に日本の高校生を男女別で見た場合を検討する。結果は表1−1のとおりで、女子は男子より「起立」派が多く、「どちらでもよい」派が少ない。この数値はP<0.05以下の水準で有意差が認められた。日本の場合、女子生徒は男子生徒よりも起立する傾向が強いといえる。 学年別でみると、3年生の起立派が少ないが、3年生のサンプルは87名と少なく、かつ、1つの高校のみであるから、学年別のデータでは軽々に判断できない。
表1−1 国旗・国歌に対する態度(日本・男女別)
2 外国の国旗・国歌に対する態度
外国の国旗・国歌に対する態度はどうだろうか。国際的な友好にも関わることだけに注目されるところといえよう。ただし、この質問についても、日本とアメリカでは異なった質問をしている、2つの質問を並べると、次のようになる。
日本の質問 では、やはり何かの行事や式典で、外国の国旗、国歌の場合はどうですか。1つだけ選んで下さい。 1.起立して威儀を正している 2.座っているときは座ったまま、特別な態度はとっていない 3.どんな態度をとっているか覚えていない 4.どちらでもいいことと思っており、特別な態度はとっていない
アメリカの質問 あなたが集団、あるいは公の場にいてアメリカの国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、次の中からあなたに最もよくあてはまるものを1つだけ選んで下さい。 1.国旗や国歌を尊重しているので、起立してセレモニーに参加する 2.特に国旗や国歌を尊重していないが、起立してセレモニーに参加する 3.セレモニーを無視して、前にしていたことを続ける
結果を図示したものが図1−2である。「起立」派は自国の場合の約4分の1より少ない17.3%に過ぎず、「どちらでもよい」派は34%、「特別の態度をとらぬ」派は23.5%、「覚えていない」は25.2%であった。 アメリカの「尊重している」が58.1%ということと比べると、彼我に大差のあることが判るし、また、「起立」するか否かだけを比べると、日本の17.3%に対し、アメリカは93.4%にもなり、これでは明らかに国際的礼儀にも反するといえよう。 この結果は極めて重要な問題を提供するといわねばならない。日本の青少年がセレモニーでの外国の国旗・国歌に対して起立せず特別の態度をとっていない状況は、厳しい非難を浴びていることも理解されよう。日本の国旗・国歌に対する態度は、自国の問題であり、国際問題ではない。しかし、セレモニーでの外国の国旗・国歌に対する態度は国際問題につながるだけに、この調査結果は国際化時代における重要な問題を提起しているといえる。事実、東南アジア諸国では、かつての歴史上の問題があるだけに、日本の青少年のこの態度は、尊大で横柄で支配的とみられることも十分考えられるし、事実、さまざまな形で抗議が寄せられているといわれている。 次に男女別・学年別で違いがあるかどうかを見よう。アメリカでは自国の国歌・国旗に対しての態度は、男女別も学年別にもほとんど差がなく、ただ外国の国歌・国旗に対しては、女子が男子より約1割「尊重しているので起立してセレモニーに参加する」という者が多い。 日本の男女別・学年別では有意差がなかった。このことは、日本の高校生にとって外国の国旗・国歌に対する無関心、ないし無視の態度は特殊なものではなく、一般的な傾向ということができる。また、自国の国旗・国歌に対しての態度と外国の国旗・国歌に対する態度は、ほぼ同じ傾向を示しているから、一般的にいって国や国を象徴するものに対して日本の青少年の無関心さが、外国や外国を象徴するものに対する無関心さと連動しているといえよう。
図1−2 外国の国旗・国歌に対する態度
3.国旗に対する意識
まず、日の丸の旗についての意識は、図1−3に示したとおり、「親しみ」10.8%、「愛着」23.3%、「誇らしい」6.8%を感ずる者は、合計して40.9%で半数に満たない。反対に「国旗として認められない」とする者が2.8%、「反発・反感」を感じる者は4.2%あった。また、「何とも感じない」者が52.0%と過半数を占めた。 この結果は少なくとも自国の国旗に対して無関心の度合いが強いことを示しているといえよう。 アメリカの愛着派の合計86.2%と比べると日本の愛着派が著しく少ないことが判る。事実、アメリカでは何とも感じないという者が6.4%に過ぎず、日本の52%の何とも感じないと比べると大差のあることが判る。 日本の質問とアメリカの質問が異なるワーディングで行われた。アメリカでは「愛着」か「好きでない」か「何とも感じない」かでたずねており、日本では「愛着」「親しみ」「誇らしい」「反発」「何とも感じない」でたずねている。これは、日本では総務庁青少年対策本部が昭和45年以来この形式の質問で5年ごとに行っているので、この結果との比較をするためであった。アメリカ側では、よりわかりやすく日本と違った形で質問を行った。 そこで、本調査の結果と青少年対策本部が過去に行った結果を比較すると図1−4のとおりとなる。 調査対象者が青少年対策本部の場合は、厳密に高校生だけでなく、本調査の対象者よりやや年長者が多い関係もあり、比較はやや困難であるが、それでも15〜19歳のほぼ高校生相当者と比べてみると、国歌に対する愛着派が本調査の高校生が極めて少ないといえよう。昭和60年と比べると国旗に対する愛着が大幅に減少し、何とも感じない者が増加したといえそうである。 他方、アメリカの高校生は、自国の国旗に対して「強く愛着を感じる」56.3%、「やや愛着を感じる」29.9%で、約9割が愛着派といえる。 男女別でみると、日本の場合には差がほとんどなく、また、学年別でも差はなかった。しかし、アメリカでは、強い愛着派は男子生徒で、かつ、3年生に多かったが、大きな差ではなかった。
図1−3 国旗に対する感情
図1−4 国旗観(昭和60年調査との比較)
4.国歌に対する意識
次に、君が代についての意識をみる。その結果は国旗に対するよりは、国歌と認めない者、反発を感ずる者がやや多かった。 この結果は図1−5に示したとおりである。
図1−5 国歌観(日本)
「親しみ」6.6%、「愛着」15.2%、「誇らしい」6.6%で、国歌に好意的な者は、合計して30.2%で、ほぼ3割に過ぎなかった。国旗に対する意識と国歌に対する意識の比較は図1−6のとおりで、国旗よりも国歌に対する好意的意識が少ない。「親しみ」「愛着」「誇らしい」の合計で国旗と国歌を比較すると、国旗の40.9%に対し、国歌は30.2%と大きな差があった。 また、国歌として「認められない」5.7%、「反発・反感を感ずる」10.6%と否定的意見をいう者が合計して16.3%もあり、ひとつの問題を提示しているといえよう。 「何とも感じない」者は、国歌53.5%、国旗52.0%で、両者に差がほとんどない。国旗のところで述べたように、国歌に対する無関心派が、国旗に対しても同じく過半数を越えているところに問題の一つがあり、この無関心という問題は、国歌に対する愛着派が国旗に対するよりも少なく、かつ、否定的意見を持つ者が国歌に対してより多いという問題と別個のものと考えられる。
図1−6 国旗観と国歌観の比較(日本)
アメリカの国歌観は、図1−7のとおりで、アメリカの愛着派が86.2%と圧倒的に多く、日本とは比較にならないことを示している。アメリカ高校生の国歌と国旗に対する意識は、愛着派が圧倒的多数で、国歌と国旗に対する意識ではほとんど差がない。しかし、日本では国歌に対し、国歌と認めない、反発を感ずる者が、国旗に対してよりも多くみられ、その分だけ国歌に対する愛着派が少なくなっている。「何とも感じない」者が、国旗・国歌でほとんど変わらない5割強であった。この結果を国旗と比較して図示したのが図1−6である。
図1−7 国旗観(日本・アメリカ)
5.国旗・国歌の変更
次に国旗・国歌を変える必要があるかについてみよう。まず、日本の国旗・国歌については、図1−8のとおりで、日の丸を国旗として認めるという者が76.2%、君が代を国歌として認める者が59.6%で、いずれも過半数を越えている。とはいうものの、新しい国旗が必要という者が11.6%、新しい国歌が必要という者が25.2%と、かなり多数が変更を主張している。国歌の変更が必要という約4分の1は、一つの事実として重いものを投げかけているといえるだろう。この結果は改めて変更の理由などをより広範囲に調べてみる必要を示唆しているように考えられる。 国旗・国歌に対する変更意見については、若干、男女差がある。国旗・国歌を変えるべきとする意見は、男子生徒が女子生徒より約1割多い。また、学年別でみた場合、3年生の現状肯定がやや低かった。 アメリカの高校生の自国の国旗・国歌に対する変更意見は、日本よりは少数であった。すなわち、国旗・国歌のいずれか、あるいは両方変えるべきとする者が9.0%、変える必要がないとする者が69.1%、何ともいえない、考えたこともない、という者が21.9%であった。
図1−8 国旗・国歌の変更 単純集計 日本 問1 あなたの学校の行事や何かの式典で、国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、起立して威儀を正しますか。1つだけ選んで下さい。(%)
問2 では、やはり何かの行事や式典で、外国の国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、起立して威儀を正しますか。1つだけ選んで下さい。
問3 あなたはふだん、日の丸の旗をみて、どう思いますか。1つだけ選んで下さい。
問4 これからの日本の国旗をどうしたらよいと思いますか。1つだけ選んで下さい。
問5 あなたはふだん、君が代を聞いてどう思いますか。1つだけ選んで下さい。
問6 これからの日本の国歌をどうしたらよいと思いますか。1つだけ選んで下さい。
アメリカ
問1 あなたが集団、あるいは公の場にいて、アメリカの国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、次の中からあなたに最もよくあてはまるものを1つだけ選んで下さい。
問2 あなたが集団、あるいは公の場にいて、外国の国旗が掲揚されたり、国歌が吹奏されるとき、次の中からあなたに最もよくあてはまるものを1つだけ選んで下さい。
問3 あなたのアメリカ国旗に対する態度は次のどれですか。1つだけ選んで下さい。
問4 あなたのアメリカ国旗に対する態度は次のどれですか。1つだけ選んで下さい。
問5 アメリカの国旗や国歌を変えるという意見についてどう思いますか。1つだけ選んで下さい。
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